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広島地方裁判所 昭和39年(行ウ)27号 判決 1969年4月15日

広島市段原中町四六九番地

原告

山本博明

右訴訟代理人弁護士

高橋一次

人見利夫

広島市大手町八丁目一〇二番地

被告

広島東税務署長

綿重三郎

右指定代理人検事

古館清吾

法務事務官

宇都宮猛

羽原仁三郎

大蔵事務官

吉富正輝

藤田敏雄

石田金之助

広光喜久蔵

右当事者間の頭書事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が昭和三八年一〇月一一日付でなした原告の昭和三四年度の総所得金額を金二三七万九、四七九円とした決定処分は、金二三二万七、九七九円を超える部分につきこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告の申立)

一、被告が昭和三八年一〇月一一日付でなした原告の昭和三四年度の総所得金額を金二三七万九、四七九円とした決定処分はこれを取消す。

二、被告が昭和三九年五月一四日付でなした原告の昭和三五年度の総所得金額を金一〇一万九、六六二円とした更正処分はこれを取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告の申立)

一、原告の請求はいずれもこれを棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、原告は遊技具スマートボールの製造販売及び同遊技場の経営を業としているものであるが、昭和三四年度及び昭和三五年度の事業所得及び給与所得の確定申告をしなかつたところ、被告は昭和三八年一〇月一一日、右両年度の原告の総所得金額をそれぞれ金二三七万九、四七九円、金八七万四、五八九円とする各決定処分を行い、原告に通知した。

二、原告は右各処分について、同年一一月八日、被告に対して異議申立をしたが、同年一二月一一日、被告はいずれもこれを棄却したので、更に原告は、同年一二月二〇日、広島国税局長に対し各審査請求をした。

三、その後被告は、昭和三九年五月一四日に前記昭和三五年度の原告の総所得金額を金一〇一万九、六六二円と更正する処分を行い原告は同月二一日右処分の通知を受けたので、同年六月一六日右更正処分に対しても被告に異議申立をしたが、この異議申立は国税通則法第第八一条によりみなす審査請求とされ、広島国税局長は同年七月三一日原告の請求をいずれも棄却し、同年八月二〇日その旨を原告に通知した。

四、原告は昭和三四年度、昭和三五年度は事業の不振により申告すべき所得がなかつたものであり、被告の前記各処分はいずれも原告の総所得金額を誤つて認定した違法があるのでその取消を求める。

第三、被告の答弁

(認否)

原告の請求原因事実中第一、二、三項はすべて認め、第四項は争う。

(主張)

一、原告の昭和三四年度及び昭和三五年度における遊技具スマートボールの製造販売並びにスマートボールおよびパチンコの遊技場の経営による所得は別表一記載のとおりである。(但し△印は欠損を示す。)

二、別表一記載の各遊技場は、その営業許可名義人が第三者であつても、実質的な経営者はいずれも原告である。

三、原告の経営する遊技場は、経営期間が短期間であつて、経営場所も転々と移動させており、更に経営の収支を明らかにする帳簿の備付及び原始記録の保管もなくかつ原告は白色申告者であつたので、被告は遊技場経営に関連した資金の動き又は資産の有高を把握し、いわゆる資産増減法によつて原告の所得を推計した。即ちその計算方式は、

(一) 期末に資産がある場合

店主引出金等(期末資産価額+収入金額-必要経費)-投下資本=所得

(二) 期末に資産がない場合

店主引出金(処分益金+収入金額-必要経費)-投下資本=所得

である。(処分益金とは、店舗設備等について売却処分がなされた場合の売却代金である。)

第四、被告の主張に対する原告の答弁

被告主張の別表一記載事実中、遊技具製造販売による収入については、昭和三四年度、昭和三五年度ともその主張事実のすべてを認める。又遊技場経営による収入については、昭和三四年度の(1)ないし(7)及び昭和三五年度の(1)、(3)欄記載の各事実並びに昭和三四年度の(8)、(9)、(10)、昭和三五年度の(2)、(4)、(5)、(6)記載の如き所在地、名称、営業許可名義人の遊技場が当時存在していた事実は認めるが、その経営者は原告ではない。己斐フレンドの営業許可名義人は原告となつているが、実質上の経営者は訴外松下美智雄である。その他はその営業許可名義人が実質上も経営者である。

給与所得については、原告が株式会社ワイエム商会の代表取締役であることは認めるが、原告は同社より報酬の支払いを受けてはいない。

第五、証拠

(原告)

甲第一、二、三号証を提出し、証人小林百合子、同松下美智雄、同田辺義一の各証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙第一一号証の一ないし二七、第一四号証、第三八号証の成立は不知、その余の乙各号証の成立はすべて認めると述べた。

(被告)

乙第一号証の一ないし六、第二ないし五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八、九、一〇号証の各一、二、第一一号証の一ないし二七、第一二ないし一九号証、第二〇号証の一、二、第二一ないし三四号証、第三五号証の一ないし六、第三六ないし四〇号証を提出し、証人木原静夫、同小枝原久(二回)、同長谷川清、同福原睦夫、同木島正の各証言を援用し、甲各号証の成立を認めた。

理由

第一、請求原因第一、二、三項の事実及び別表一記載事実中、昭和三四年度、昭和三五年度の、遊技具スマートボールの製造販売による収入については、当事者間に争いがなく、又遊技場経営による収入については、昭和三四年度の(8)、(9)、(10)及び昭和三五年度の(2)、(4)、(5)、(6)の実質上の経営者及びその所得金額を除いては、当事者間に争いがない。

第二、そこで広島市の己斐フレンド、青森市のYMホール、仙台市のYM会館、大阪市の赤玉会館及びYMホール、岡山市のYMホールの各遊技場について、その実質上の経営者が原告であるか、然りとすれば、本件係争年度におけるその所得金額はそれぞれ幾らとなるかについて判断する。

一、先ず推計課税を行うことの適否について検討する。

被告は資産増減法即ち経営による収入金から必要経費を差引いた後原告の取得する金額に、該遊技場の期末における資産価額(期末に資産がない場合には、営業終了の際の店舗設備等の売却代金額)を加えたものから開店資金、店舗設備費、遊技具費等開店の際の投下資本(以下店主元入金という。)を差引いたものを所得として認定する方法によつて、原告の所得を算定しているが、証人長谷川清の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は青色申告者ではなく、収入金額及び必要経費等を明らかにすべき営業上の諸帳簿その他所得金額を算定するにつき信頼するに足る資料をなんら作成保存しておらずかつ税務当局の調査に対しても非協力的であつたことが認められるから、推計によつてその所得を認定することが許されるものと言うべく、そして前記のような資産増減法による所得の推計は合理的なものと認めることができる。

二、広島市の己斐フレンドについて

成立に争いのない乙第二号証、証人松下美智雄の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三三年三月から同三五年三月までの間、広島市己斐町において己斐フレンドという名称でパチンコの遊技場営業を行つており、右営業により、昭和三四年に金三〇万円、同三五年に金一〇万円の利益をあげた事実が認められる。原告は右営業は山本君香との共同経営によるものであつたかの如くに供述するが、右供述は、前記乙第二号証に照して措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三、青森市のYMホールについて

(一)  証人松下武羅夫、同松下美智雄の各証言によれば、青森市のスマートボール遊技場YMホールの営業名義人である松下武羅夫はホールのいわゆる責任者に過ぎず、実質上の経営者は原告であつたことが認められ乙第二四号証、第三〇号証、第三二号証及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しがたく、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(二)  そこで次に右ホールにおける所得について検討する。

(イ) 店主元入金

店舗開設に当つて投下された資本(店主元入金)が金三一六万円であることは被告の主張するところであり、それ以上の資本投下のなされたことについては何らの主張立証もなされていないから店主元入金は金三一六万円と認めるのが相当である。

(ロ) 店主引出金

1. 成立に争いのない乙第三号証、第二四号証、証人松下武羅夫の証言及び原告本人尋問の結果によれば同ホールは昭和三四年三月頃開設されたが、営業は不振で利益はあがらず一カ月足らずで廃業したこと

2. 成立に争いのない乙第一五号証、第二五号証によれば、昭和三四年五月二日青和銀行新町支店より、三井銀行広島支店を通じて山本君香宛に金五〇万円が送金され、右金員は同日同銀行の松下美智雄名義の当座預金口座に振り替えられていること

3. 成立に争いのない乙第一三号証によれば、同月六日青森銀行本店より三井銀行広島支店の山本君香名義の預金口座に金一五〇万円が送金されていること

4. 成立に争いのない乙第一六号証、第一九号証によれば、同月六日青森銀行新町支店より日本勧業銀行大森支店を通じて永谷義和宛に金五〇万円が送金され、右金員は同日、同行の石渡一夫名義預金に入金されていること

5. 成立に争いのない乙第三、四号証によれば、原告は自己の資産の隠とくを企図し数個の架空名義又は他人名義の預金口座を設けていたが、その一つとして松下美智雄や山本君香(同人は原告の親族である)の名前が使用されていたこと

の各事実がそれぞれ認められる。

6. また、後記認定のように日本勧業銀行大森支店の石渡一夫名義の預金口座には原告の営業に係る仙台市の遊技場YM会館の利益金の一部が送金されている。

以上の各事実と前記認定の投下資金が金三一六万円であるという事実及び、青森市におけるYMホールの開設に当り松下武羅夫に貸した金員は、廃業後一、二カ月してその店を譲渡した時に返済を受け金五〇万円程の未払金ができた旨の原告本人の供述を併せ考えると前記2.3.4.の合計金二五〇万円は、店舗の譲渡によつて得られたもので、右金員だけ店主元入金が回収されたものと認めるのが相当である。

従つて原告は昭和三四年度において、青森市のYMホールの経営により金六六万円の損失を蒙つたものというべきである。

四、仙台市のYM会館について

(一)  成立に争いのない乙第七号証、第一〇号証の一、二、第二四号証、証人松下武羅夫の証言及び原告本人尋問の結果(後記認定に反する部分を除く)によれば、仙台市におけるスマートボール遊技場YMホールの開設に当つては建物の賃貸借契約の締結、家賃の前払い等原告がこれを行つており、松下武羅夫が仙台に赴いた時には、YMホールはすでに開業するばかりに段取りができていて、営業許可名義人である松下武羅夫は、営業許可申請が誰の手によつてなされたかも、又営業許可名義人が誰になつているかも知らされていなかつたこと、同ホールの営業によつてあげるべき利益の目標額を原告が同人に対して指示し、同人はその多寡にかかわらず一定の給料をうけ営業期間の延長なども原告によつて一方的に決定されていたことなどの事実が認められる。

そうだとすると同ホールの実質上の経営者は原告であると認めるのが相当であり成立に争いのない乙第二四、第三〇、第三二号証及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  そこで次に、同ホールの営業による原告の所得について検討する。

(イ) 店主元入金

原告が店舗開設に当り店主元入金として金二三〇万円を支出したことは被告の主張するところであり、それ以上の資本投下のあつたことについては何らの主張立証もないから店主元入金は金二三〇万円と認めるのが相当である。

(ロ) 店主引出金

証人松下武羅夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、遊技場経営に関する必要経費は、当該遊技場経営によつてあげる収益金のうちからこれを支出していたことが認められる。又成立に争いのない乙第二一号証(預金先徳陽相互銀行の松下武羅夫名義の普通預金通帳)、同第二二号証(預金先徳陽相互銀行の松岡博夫名義の普通預金通帳)、同第二三号証(預金先三井銀行仙台支店の松下武羅夫名義の普通預金通帳)第三二号証及び証人松下武羅夫の証言及び弁論の全趣旨によれば右各預金通帳は、仙台市におけるスマートボール遊技場YM会館の営業による収入金の預入及び引出を記帳したものであることが明らかであるところ、右各預金からの引出金のうち、後記認定の送金分(現金持帰り分を含む)については必要経費の支払いに当てられたものではないと認められるのでこれがYM会館の収益金となると解するのが相当である。

ところで前記乙第二一、二二、二三号証、成立に争いのない乙第三三号証、第一八、一九号証、第二四号証、第二〇号証の二、第三四号証、第三五号証の一、第三六号証、第三、四、五号証、第一六号証、証人小枝原久の証言(第二回)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

徳陽相互銀行松下武羅夫名義普通預金から

1. 昭和三四年六月八日金三〇万円、同月一〇日金一〇万円、同月一二日金一〇万円が引出され、右各金員は、それぞれ、同月八日、一一日、一三日に平和相互銀行上野支店山川博名義預金に入金された。

2. 同年七月二日金五〇万円が引出され、右金員中金二〇万円は、同日三井銀行広島支店の末広一二三名義の普通預金に、その余の金三〇万円は、同月七日、日本勧業銀行大森支店の石渡一夫名義の預金に入金された。

3. 同月一五日金六〇万円が引出され、右金員は、同月一七日、前記の石渡一夫名義の預金に入金された。

4. 同月二七日金三〇万円が引出され、右金員は同月三〇日、前記の石渡一夫名義の預金に入金された。

徳陽相互銀行松岡博夫名義の普通預金から

5. 同年八月一二日金三〇万円が引出され、右金員は同日前記末広一二三名義預金に入金された。

6. 同月二〇日金一二万円が引出され、右金員は同月二二日、平和相互銀行上野支店田村正美名義の預金に入金された。

7. 同年九月一日金三〇万円が引出され、右金員は同月三日、前記石渡一夫名義の預金に入金された。

8. 同月二日金五五、〇〇〇円が引出され、右金員は、同日広島銀行三井支店を経由して十時志雄に送金された。

9. 同月一〇日金三〇万円が引出され、右金員は、同日三井銀行御徒走町支店株式会社ワイエム商会名義の当座預金に入金された。

10. 同月一六日金二〇万円が引出され、右金員は、同日三井銀行広島支店の神田正名義の預金に入金された。

11. 同月三〇日金五〇万円が引出され、右金員は同年一〇月一日、前記石橋一夫名義の預金に入金された。

12. 同年一〇月九日金一五万円が引出され、右金員は同日前記ワイエム商会の当座預金に入金された。

13. 同月二六日金三一万円が引出され、右金員は一旦東京に送金された後三井銀行御徒歩町支店から他店券小切手二四万〇、五〇〇円と共に同月三一日三井銀行広島支店の神田正名義の預金に入金された。

14. 同年一一月四日金二五万円が引出され、そのうち金二〇万円は同日、日本勧業銀行大森支店の石渡一夫名義の普通預金に入金されたうえ、更に後記18の二〇万円と共に同月七日三井銀行広島支店の神田正名義の普通預金に入金された。

15. 同年一一月二七日金五万円が引出され、右金員は、同日三井銀行仙台支店の松下武羅夫名義の普通預金から引出された金二五万円と共に、同日、前記石渡一夫名義の預金に入金された。

16. 同年一二月二九日金一〇万円が引出され、右金員は同日、三井銀行広島支店を経由して、増田義昭に送金された。

三井銀行仙台支店の松下武羅夫名義の普通預金から

17. 同年一〇月二七日金二〇万円が引出され、右金員は同日、三井銀行広島支店の神田正名義の預金に入金された。

18. 同年一一月七日金二〇万円が引出され、右金員は同日、前記石渡一夫名義の預金に入金された。

19. 同月二七日金二五万円が引出されたが、右金員は15で認定したとおり、同日、前記松岡博夫名義の普通預金から引出された金五万円と共に前記石渡一夫名義の預金に入金された。

右認定に反する証拠はない。

ところで前記乙第二一、二二、二三号証によれば、前記各預金口座から右の外にも相当多額な金員が引出されていることが認められ、又証人松下武羅夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一〇、成立に争いのない乙第二四号証及び弁論の全趣旨によれば、スマートボール遊技場経営に関する必要経費の主なものは景品購入費、人件費、家賃等であることが認められる。この事実と前記認定の各送金先及び本件の営業場所が仙台市であることとを併わせ考えると、前記認定の各送金は、必要経費の支払いとして行われたものではないと認めるのが相当であり、右認定に反する証拠はない。

次に成立に争いのない乙第三二号証、第三四号証、第四〇号証、証人松下武羅夫の証言によれば、同人は昭和三四年五月から七月までの間に金五〇万円を現金書留で原告に送金したほか仙台を引揚げる時、現金五〇万円を広島に持ち帰つた事実が認められる。

尚前記のように右認定の外にも前記各預金から金員が引出されている事実が認められるが、現金で持ち帰られた金員(現金書留で送金された分を含む)については右に認定した金一〇〇万円のほかにその数額を確定するに足る証拠はない。

(なお乙第二三号証によれば、昭和三四年一一月七日三井銀行仙台支店の松下武羅夫名義の普通預金から金二〇万円が引出された事実、乙第二〇号証の二によれば同月一二日三井銀行広島支店の神田正名義の普通預金に金二〇万円が入金された事実が認められる。しかしながら右乙第二〇号証の二及び成立に争いのない乙第三六号証によれば神田正名義の普通預金に入金された金二〇万円は三井銀行御徒歩町支店から渡辺シゲルの名で送金されたものであることが認められ、右金員が仙台の前記松下武羅夫名義の預金から引出されたものだとすれば、先ず仙台から東京に送金されている筈であるのに右送金事跡を窺わせるに足る証拠はない。従つて同月七日引出しの金二〇万円が神田正名義預金に入金されたものと認めることはできない。また成立に争いのない乙第二二号証によれば同月一三日徳陽相互銀行の松岡博夫名義の普通預金から金二一万五、〇〇〇円が引出された事実が、又成立に争いのない乙第二〇号証の一によれば同年一一月一六日東京相互銀行の田中絹子名義預金に金一五万円が入金された事実が各認められる。しかしながら右引出金額と入金額には差があり、引出日と入金日には三日のずれがある。又金一五万円がどこから送金されたものであるかについては乙第二〇号証の一には何の記載もなく、他にも送金元を知り得る証拠はない。以上によれば同月一三日引出された金二一万五、〇〇〇円が田中絹子名義の預金に入金されたものと認めることはできない。)

以上のとおりであるから必要経費差引後の収入金額は右に認定した金員の合計金六一三万五、〇〇〇円となる。

従つて仙台市のYM会館の営業による原告の所得は金三八三万五、〇〇〇円となる。

五、大阪市の赤玉会館について

(一)  成立に争いのない乙第三号証、証人松下武羅夫の証言により真正に成立したと認められる乙第一一号証の一ないし一三、証人木原静夫、同松下武羅夫、同松下美智雄の各証言によれば、大阪市におけるスマートボール遊技場赤玉会館は、営業許可名義人は松下武羅夫となつているも、同人は単なる経営責任者に過ぎず、その実質上の営業主は原告であつたことが認められる。右認定に反する乙第二四号証、第三〇号証の原告本人及び松下武羅夫の各供述記載部分並びに原告本人尋問の結果は措信できない。

(二)  次に昭和三五年度における右遊技場の所得について判断する。

(イ) 投下資本と必要経費とを差引いた後の収入金額

前記乙第一一号証の二ないし一一及び成立に争いのない乙第二四、第三〇、第三二、第二六、第二七号証並びに証人松下武羅夫の証言及び原告本人尋問の結果によれば以下の事実が認められる。

1. 営業開始に当つては、前払家賃五カ月分金一五〇万円、敷金一〇万円、遊技具代金五〇万八、二〇〇円、その他の開店設備資金二〇万四、七九五円、合計金二三一万二、九九五円を要したが、右金員は、同年九月末日までに全額回収が済み、そのうえ同日までに金一〇万円の利益を生じた。

2. 赤玉会館経営に関する必要経費は、同会館の収入金によつて賄われていた。

3. 松下武羅夫は、赤玉会館の営業による収入金を三和銀行四貫島支店に、同人名義で預金し必要経費を支払つた後の収入金がかなりの額に達すると、これを、昭和三五年九月末日以降は専ら広島銀行銀山支店の山本小夜子(原告の妻)名義の当座預金口座に、同人或いは使用人徳田恭一の名で送金していたが、右山本小夜子名義の預金は、原告の偽名預金口座である。

4. 赤玉会館の収入金の送金に当つては、同館の収入金だけを単独で送金することも、又その他の金(例えば大阪市の十三会館関係の金。十三会館が原告経営にかかるスマートボール遊技場であることは当事者間に争いがない。)と一緒にして送ることもあつた。

5. 三和銀行四貫島支店の松下武羅夫名義の預金口座から昭和三五年一〇月一一日金一〇万円、同月二〇日金二五万円、同月二七日金二一万円、同年一一月五日金二二万円、同月一〇日金一〇万円、同月二一金三六万円、同年一二月一四日金二〇万円が引出された。

6. 前記山本小夜子名義の預金口座に、広島銀行大阪支店から、同年一〇月一一日金三二万四、四〇〇円、同月二〇日金二五万円、同月二七日金二五万円、同年一一月五日金一七万円、同月二一日金五五万円が松下武羅夫の名で、同月一〇日金一〇万円、同年一二月一四日金二〇万円が徳田恭一の名で送金された。

7. 同年一一月五日に送金された金一七万円及び同月二一日送金された金五五万円のうち赤玉会館の分はそれぞれ金一〇万円、金四〇万円で、その余は十三会館関係の金である。

8. 松下武羅夫は、赤玉会館の収益金合計金三〇万円を、現金で広島に持ち帰り原告に渡したことがある。

以下の各事実によれば、赤玉会館における店主元入金と必要経費とを差引いた後の収入金額は、同年九月末日迄にあげた利益の金一〇万円、同年一〇月一一日送金された内の金一〇万円、同月二〇日送金された金二五万円、同月二七日送金された内の金二一万円、同年一一月五日送金された内の金一〇万円、同月一〇日送金された金一〇万円、同月二一日送金された内の金四〇万円、同年一二月一四日送金された金一〇万円、及び松下武羅夫が現金で持ち帰つた金三〇万円の合計金一七六万円と認めるのが相当である。

(ロ) 次に期末資産の価額について判断する。

前記乙第三二号証、証人小林百合子の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証の一、二、証人松下武羅夫の証言により真正に成立したと認められる乙第一一号証の一九によれば、松下武羅夫は昭和三五年暮健康を害して赤玉会館の責任者をやめて帰広したが、その後同会館は、小林百合子が引続いて営業を担当したことが認められる。

そこで、昭和三五年期末における同会館の資産の価額について判断する。

前記乙第三〇号証、第二六号証によれば、同年暮、赤玉会館には手持景品が金二万七、〇〇〇円相当及び銀行預金が金七、二五一円あつたことが認められ、又先に認定したように敷金一〇万円が支払われているが、これらはいずれも期末資産として評価されるべきものである。

次に期末における遊技具、諸設備の資産価額について判断する。

本件係争年度当時の固定資産の耐用年数等に関する省令によればスマートボール器、遊技具設備の耐用年数はそれぞれ二年、一〇年であるから年当償却率はそれぞれ〇・五、〇・一であり(弁論の全趣旨によれば原告は減価償却の方法について届出をしていないと認められるから所得税法施行規則第一二条の一四により償却率は定額法による。)又所得税法施行規則第一二条の一二第四項によれば残存価額(予定耐用年数経過後における当該物件の評価額)は取得価額の一割である。ところで先に認定したように赤玉会館の遊技具諸設備の取得価額はそれぞれ金五〇万八、二〇〇円、金二〇万四、七九五円であるところ、前記乙第二四号証、第二六号証によれば赤玉会館の営業開始は昭和三五年七月であることが認められるので、右省令第五条により本件事業年度の月数は六カ月となるから期末におけるその資産価額を算出すれば遊技具が金三九万三、八五五円、諸設備が金一九万五、五七九円となる。

従つて期末資産価額は合計金七二万三、六八五円となる。

以上のとおりであるから赤玉会館における原告の所得は金一七六万円と七二万三、六八五円の合計金二四八万三、六八五円となる(尤も被告はその所得額を金一八九万二、四三六円と主張しているが、被告主張に係る係争年度の総所得金額の範囲を超えない限り、各事業所毎の被告主張額と認定額とが相違しても、なんら差支えないと解する。)

六、大阪市のYMホールについて

(一)  証人小林百合子の証言、原告本人尋問の結果(後記認定に反する部分を除く)及び弁論の全趣旨によれば、右小林は、原告にすすめられて、大阪市のスマートボール遊技場YMホールの営業に関与するようになつたものであること、同ホールの店舗は原告の主宰する事務所のものによつて設けられその賃貸借契約も原告が自己の名義でしていること、小林は、ホールの収支如何にかかわらず同ホールから最低生活費を取得することにつき原告の承諾を取りつけていることなどの各事実が認められこれらの事実と成立に争いのない乙第三号証、証人木原静夫、同松下美智雄の証言を併せれば、同ホールの営業名義人小林百合子は単なる経営責任者に過ぎず実質上の経営者は原告であると認められる。成立に争いのない乙第二四号証、証人小林百合子の証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用できない。

(二)  次に同ホールの所得について検討する。

(イ) 店主元入金

成立に争いのない乙第二四号証によれば店主元入金として前払家賃金七二万円、機械代金三〇万円、諸設備費用金二八万円、合計金一三〇万円を要したことが認められ右認定を左右するに足る証拠はない。

(ロ) 店主引出金について

成立に争いのない乙第二七号証、第二四号証によれば広島銀行銀山支店山本小夜子名義の普通預金口座に広島銀行大阪支店から合計金四八六万四、四〇〇円の送金がなされている(送金人は松下武羅夫あるいは徳田恭一)が右金員のうち金一〇〇万円は大阪YMホールの収益金であると認められる(残金のうち金一三〇万円は十三会館の各収益金でありその余は赤玉会館の収益金であると認められる)。又乙第二四号証によると原告は右YMホールの元入金の回収として金三〇万円を現金で受取つた事実があることが認められる。次に成立に争いのない乙第二五号証、第二八号証によれば、小林百合子は三井銀行難波支店を通じて、昭和三五年五月九日に金五〇万円を三井銀行広島支店の西山一夫名義の普通預金口座に、同年六月一四日、七月一日にそれぞれ金一五万円を三井銀行広島支店の松下美智雄名義の当座預金口座に各送金していることが認められ、前記乙第二四号証及び証人小林百合子の証言によれば同人は大阪YMホールの経営に関与するまでは広島に居たものであり、昭和三五年三・四月頃大阪YMホールに関与するようになつてから同年七月頃までの間に右YMホール以外の事業に関与したことはないと認められるので右金員は大阪YMホールの収入金であると認められる。

以上によれば大阪YMホールの店主引出金は金二一〇万円ということになる。

従つて同ホールからの所得は金八〇万円となる(なお乙第二四号証、証人小林百合子の証言によれば大阪YMホールは昭和三五年三、四月頃開業され同年九、一〇月頃廃業されたと認められるのであるが廃業時の資産はその後処分されて処分益金は前記山本小夜子名義の預金に組み込まれていると考えられる。)

七、岡山市のYMホールについて

(一)  前記乙第三号証、成立に争いのない乙第三一号証、証人木原静夫、同田辺義一の各証言によれば、右ホールの営業名義人は田辺義一であるが、実質上の経営者は原告であると認められ、乙第二四号証及び原告本人尋問の結果中認定に反する部分は措信できない。

(二)  次に昭和三五年度における右ホールの所得について判断する。

前記乙第三、四号証、第二四号、第三一号証、成立に争いのない乙第二八号証及び弁論の全趣旨によれば、右ホールの営業開始に当つては、前払家賃金五五万円、遊技具代金四三万円、諸設備費用金五〇万円合計金一四八万円を要したこと、昭和三五年一二月二六日、右ホールの収益金七〇万円が三井銀行広島支店の西山一夫名義の普通預金口座に送金されたこと、開業資金や機械代金の回収として、同月末頃に岡山郵便局から金一〇万円が更に同じ頃三井銀行岡山支店から金二〇万円がそれぞれ電報送金されたことが各認められる。

次に前記乙第二四号、第三一号証及び原告本人尋問の結果によれば、同ホールの開業は、昭和三五年一一月二一日であること、前払家賃金五五万円は五カ月分の家賃であり従つて同年末現在においては前払家賃は少なくとも金四〇万円の資産として存在したことが認められる。

次に遊技具、諸設備の期末資産価額を赤玉会館についてしたと同様の方法により算出すればそれぞれ金三九万七、七五〇円、金四九万二、五〇〇円となる。

従つて期末資産の合計額は金一二九万〇、二五〇円となる。

以上のとおりであるから昭和三五年度における右ホールの所得金額は、右期末資産の合計額に引出金合計金一〇〇万円を加えた金二二九万〇、二五〇円から元入金一四八万円を差引いて金八一万〇、二五〇円となる。

第三、次に原告の給与所得について判断する。

原告が株式会社ワイエム商会の代表取締役であることは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない乙第三、四、五号、第三九号証、証人福原睦夫の証言により真正に成立したと認められる乙第三八号証、証人福原睦夫、同木原静夫の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、株式会社ワイエム商会の設立は昭和三四年六月一〇日であること、原告に対する給与は、同年六、七月には各金三万円、八月以降一二月までは各金五万円がそれぞれ支給されたことが認められる。ところで右のとおり会社の設立は同年六月一〇日であるから、六月分の原告の給与所得は日割計算により金二万一、〇〇〇円と認めるのが相当である。

よつて、昭和三四年に原告が代表取締役として株式会社ワイエム商会から支給を受けた給与の総額は六月分の金二万一、〇〇〇円、七月分の金三万円、八月分から一二月分までの毎月金五万円の合計金三〇万一、〇〇〇円となり、これから昭和三四年当時の所得税法第九条第五号により給与所得控除を行うと原告の同年における給与所得は金二四万〇、八〇〇円となる。

又前記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、昭和三五年度において原告は、右会社から前年に引続き代表取締役として毎月金五万月の給与の支払いを受けていたと認められるから、同年における給与総額は金六〇万円となり、これから昭和三五年度当時の所得税法第九条第五号により給与所得控除を行うと、原告の同年における給与所得は金五〇万円となる。

以上の認定に反する原告本人尋問の結果の一部は措信できず他に右認定を左右するに足る証拠はない。(なお、原告は、現実には支給を受けていなかつた旨供述するが仮に右供述が真実であるとしても、前記各証拠によれば、原告に支給すべき給与額が、さきに認定した内容のように定められていたことが認められるので、給与支払日の到来と共に原告の給与債権は確定し、右は収入として扱われるべきものであるから、これによつて前記の結論が左右されるものではない。)

第四、結論

以上のとおりであるから原告の昭和三四年度、昭和三五年度における所得金額は別表二のとおり昭和三四年度金二三二万七、九七九円、昭和三五年度金一六五万七、五四二円となる。

従つて原告の請求は昭和三四年度分の金二三二万七、九七九円を超える部分については理由があるのでその限りにおいて認容し、その余については理由がないのでこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条、第九二条但し書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤宏 裁判官 岡田勝一郎 裁判官 高篠包)

別表一

第一、昭和三四年度総所得金額 二、三七九、四七九円

一、事業所得 二、一三八、六七九円

(一) 遊技具製造販売による所得 △三八七、八二一円

<省略>

(二) 遊技場経営による所得 二、五二六、五〇〇円

<省略>

二、給与所得 二四〇、八〇〇円

(株)ワイエム商会代表取締役としての給与総額三〇一、〇〇〇円から給与所得控除したもの。所得税法第九条第五号参照(昭和三四年法第一六〇号改正によるもの)

第二、昭和三五年度総所得金額 二、七五三、二〇二円

一、事業所得 二、二五三、二〇二円

(一) 遊技具製造販売による所得 △二、一一五、九八七円

<省略>

(二) 遊技場経営による所得 四、三六九、一八九円

<省略>

<省略>

二、給与所得 五〇〇、〇〇〇円

(株)ワイエム商会代表取締役としての給与総額六〇万円から給与所得控除したもの。所得税法第九条第五号参照(昭和三五年法第八九号改正によるもの)。

別表二

第一、昭和三四年度総所得金額 二、三二七、九七九円

一、事業所得 二、〇八七、一七九円

(一) 遊技具製造販売による所得 △三八七、八二一円

<省略>

<省略>

(二) 遊技場経営による所得 二、四七五、〇〇〇円

<省略>

二、給与所得 二四〇、八〇〇円

(株)ワイエム商会代表取締役としての給与総額三〇一、〇〇〇円から給与所得控除したもの。所得税法第九条第五号参照(昭和三四年法第一六〇号改正によるもの)

第二、昭和三五年度総所得金額 一、六五七、五四二円

一、事業所得 一、一五七、五四二円

(一) 遊技具製造販売による所得 △二、一一五、九八七円

<省略>

(二) 遊技場経営による所得 三、二七三、五二九円

<省略>

<省略>

二、給与所得 五〇〇、〇〇〇円

(株)ワイエム商会代表取締役としての給与総額六〇万円から給与所得控除したもの。所得税法第九条第五号参照(昭和三五年法第八九号改正によるもの)。

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